人の命は等しくない

一週間前、テロの日の朝、わたしは余裕ぶちこいて寝てました。
救急車なのかパトカーなのか、サイレンの音が外でずっと続いていて、
変だなあ変だなあと思いながらも、体調悪かったせいもあり、うだうだと二度寝。

10時半ごろやっと起き出して、うちの先生に頼まれていた所用の確認のために
テキストメッセージ(ショートメッセージというのか? 簡易携帯メールみたいなの)を
送ろうと携帯電話を見ると、UK版、日本版ともに、電波が来てない。
地上の電話で学校に連絡しようとすると、こちらも「ただいま回線が大変混み合っており」
とか言っている。

即、寝ぼけた頭にも「なんかあったぞ、これは」というヤな感じがよぎり、
テレビをつけると、トニー・ブレアが「われわれはこのような野蛮な行為に」云々、言っている。
5分ほど見ているうちに、市内何箇所かで爆発テロがあったことを知る。

隣のポーランド人(推定)のおばちゃんが帰宅した気配があったので、
ガバっとドアを開けて「どうなってるの?」と聞くと、彼女はしごく落ち着いた模様で、
「あらあたし、仕事に行こうと思ったら地下鉄止まっちゃって、トンネルの中を1時間も
歩いてやっと帰ってきたのよ。どうせ遅刻だからついでに買い物してきたわ」
などと言って、セインズベリー(スーパーです)のビニール袋を両手一杯に下げている。
緊張感ゼロ。

エリア的にまったく外れているので99.9%大丈夫とは思いながら、朝、普通に
出て行ったうちの先生のことが心配になり、どしゃぶりの雨の中、学校に様子を見に行く。
当然、バスは走っておらず、地下鉄の駅も閉まっている。道を歩いている人の数が
普段の3倍くらいいた。

学校に着くと校内は人でいっぱい。夏休みシーズン到来で、この週から台湾やらイタリアやら
スペインからお子様集団が大挙して訪れていて、ただでさえ人が多いというのに、皆、
親元から安全確認の連絡がじゃんじゃん入るので、ひとまず学校で待機しているのだった。

そのうちに、うちの先生の聞きなれた大声が聞こえ、ほっと胸を撫でおろす。
思うに、先生の無事を知りたかったというより、どことも連絡がとれない、
なにやら非常事態の時にひとりで家にいて心細い自分をなんとかなだめるために、
先生の顔を見たかったのだな。精神安定剤というやつだ。
なんせあの絶え間ないサイレンというやつが、ものすごく心臓に悪い。
うちも学校も全然現場からは離れているのだが、ロンドンの東西を結ぶ幹線道路があるから、
イーストエンドのほうで足りない救急車なんかを西側から送り込んでいたんだと思う。

そんなてんやわんやの騒ぎの中で先生に会ってもしょうがないので、ひとまず他の
知人友人の顔を見てから帰宅。
当初の予定通り、帰国のための荷造りやら引越し荷物のパッキングやら。

けっきょく翌日はわたしの住んでいるカムデン地区の公立学校はみんな臨時に
休みになったそうだ。
が、うちの学校は授業を強硬した。賛否両論だろうけど、私はそれでよかったと思う。

誰も公に言わないのが不思議なんだけど、今回のテロ、冷静に考えると、
私はロンドンはものすごくラッキーだったと思うんだよね。
今までのニューヨークやらマドリッドと比べると、被害、規模ともに、ものすごく小さい。

なのに、ロンドン市長やらがテレビに出てきて9/11のニューヨークのテロとの
比較なんかをしたり、「われわれは二度の世界大戦を乗り越え、あのドイツすら
撃退したのだ、テロになど負けない」などと鼻息荒く言っているのが、
わたしにはなんだかものすごく違和感があるのだ。

これからまだなんかあるんじゃないか、という気がするのもあるし、
5000人の犠牲者が出たニューヨークと比べて悲壮ぶるなよ、わたしらメチャ、
ラッキーだったじゃん、と言いたい気がするのと両方。

もちろん、テロ自体には怒りを覚えるし、犠牲になった人にはなんとお悔やみを言って
よいのか分からないけど、それにしても、メディアや政治家たちの過熱ぶりが
わたしにはなんともいえない「違和感」なのだ。

一方で、わたしが知る限りの一般のイギリス人たちはごくごく冷静で、
普段通りの生活を続けているし、あまり興奮した様子もない。
アメリカのときのように、愛国心やテロリストへの怒りをむき出しにしたりしてる人は
あんまりいない。すーーーーーっごい冷静である。まるで他人事のようである。

たしかにイギリス人はもっと怒るべきなのかもしれない。
一丸となって立ち上がるべきなのかもしれない。
でもやっぱりわたしは、アメリカ(っていうかブッシュ)のように安易に
「テロリスト=イスラム=敵」としようとしないイギリス人の性質を評価したい。

そんなこんなで、テレビや新聞での過密な報道ぶりと、巷のイギリス人の普通ぶりの
体温の差に、なにかしらの戸惑いを覚えるのです。

ちなみに、わたしは普段から地下鉄が大嫌いで、よほどのことがない限り乗らない。
あの地下に潜る得たいの知れなさがどうにも苦手なのだ。ちょっと閉所恐怖症気味でもあるし。
ベイカーストリートに行くのにチューブだと5分なのに、わざわざ30分以上もかけて
渋滞のなか、バスで行くくらい。学校を選んだときも「地下鉄に乗らずに済む」ことを
条件に探したくらいだ。

ついでに言うと人混みも嫌いなので、滅多に行きません。
ネルソン・マンデラの演説のときも、トラファルガー勝利の式典のときも、
なんぞ起こりそうな場所には絶対にいかん。
ましてや今回はパリに勝ってオリンピック主催地になった直後のことですもん、
わたしゃー石橋叩いて渡りますって。

ちなみにオリンピックに関して喜んでいる人はわたしの周りにはひとりもいない。
どっちかっていうと「ぐぁあぁああ! つまんない見栄張りやがって~」と叫んでいる人の
ほうが多い。
これで税金は確実にあがるし、不動産も高くなるし、あんまりいいことないです、ほんと。
うちの先生は家を買おうと思っていたエリアがちょうどオリンピック予定地なので、
マジで怒ってましたって。
ま、パリがライバルじゃなかったらここまで盛り上がらなかったんだろうなあ。
イギリス人って、ほんとうにフランスが嫌いなんだよね(笑)。あとドイツも。

ということで、メールくださった皆さん、どうもありがとうございました。
わたしはまあ、こういう時はたいてい大丈夫です。パリでスリにやられるくらいです。

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と、どたばたしつつも、帰国しました。
成田空港でポンドを両替して、出てきた千円札が、どうも見慣れない。
「これ、本物ですか」と思わず聞いてしまった私。ええええ、新札だって知りませんでしたよ。
恥ずかしい……。でもなんかオモチャっぽいデザインだなあ。

でもやっぱり日本はいいですね。おいしいものがたくさんある。
さっそくミョウガのお味噌汁なんぞをすすって幸せを実感しています。

ロンドンは耳に入る言葉が英語ばっかりってことはないし、場所によっては英語なんぞ
ぜんぜん聞こえてこないこともあるから、山の手線なんか乗ってて、みんなが日本語を
話しているのがものすごい新鮮だ。
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by masala_days | 2005-07-14 20:44 | 旅なんちゃって


20代の暗黒時代をインドとイギリスその他あちこち季節移動し続け、30代、やっと日本国で社会復帰。8か月の産育休を経て、現在、働くかあちゃん。オットの不在中に衝動買いしたマンションの借金返済に勤しむ


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