遠くて近い両国

インドにいた頃、まさか数年後に自分がイギリスに移住することになろうとは思ってもいなかった。

ただ、イギリスの影響というのをあちこちで目にしたり肌で感じたりして、漠然とだけど、この国についてなんらかの伏線めいたものがあったのは確かだ。たとえば、いわゆるインド英語は大英帝国仕込みだし(発音も文法も大いにインド化してるが)、レストランのサービスやら、左側通行の道やら、ボンベイやカルカッタに残された植民地時代の建物やら、私がいまさら言うまでもなく、インドの風景、そして日常に、イギリスの欠片がたくさん残っている。

イギリスに来て、今度は逆のことを感じている。
イギリスの文化や生活に、インドあるいはそれを思わせるインド亜流なものが、予想以上に深く浸透しているからだ。

特にロンドンはインド人が多い。私の住んでいる北西ロンドン郊外某所はことに多くて、インド系食材を調達するための食料品店には困らない。そういや、うちの両隣もインド人家庭だし。

一口にインド人といっても、みんなそれぞれ違うルートでイギリスに辿り着いたらしく、東アフリカ経由だったり、実はバングラ人やパキスタン人だったりすることは、以前、ちらと書いた。それは主に、去年、渡英直後に見た、「Asian Invasion」というテレビ番組からの知識だったのね。

日本で「アジアの侵略」なんてものをテレビ番組のタイトルにしたら物議をかもしそうなんですが、イギリスでは問題ないみたい(ちなみにヨーロッパやらアフリカで「Asian」といえば、まずはインド系のことを指す。日本人はAsianというよりも、中国人と同じように「Oriental」と呼ばれることが多い。関係ないが、去年クラスメイトだったイラン人の子が、「私たちアジア人」と私のことも含めて表現したことがあって、私にしてみればイランは「中東」で自分とは明らかに違う管轄だと思っていたので、なんだか意表をつかれた感じだった)。

と大きく話しがずれましたが。そのテレビ番組によると、イギリス内のインド人は次のように分けられるらしい。

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1)東アフリカ経由の人々
むかーし昔(この辺、覚えてなくてツメが甘いのがへっぽこライターたる所以)、イギリスが東アフリカに鉄道を建設していたころ、労働力としてグジャラート州の6つの村からインド人を連れて行った(のか有志を募ったのか見逃した。うーん)。こういう場合、働き手の男衆だけがいくということはありえず、はたまた女性もサリー姿で建築現場で働いていたりするので、おそらく家族ぐるみで行ったのだと思われる。で、地域やカーストで苗字がある程度固まっているお国事情から、彼らの多くが「Patel」さんだったそうです。

ケニア、香港、シンガポール、そしてイギリスと、今まで世界中でこの「パテル」さんという苗字を耳にしてきたけど、もとを辿ればグジャラート州の小さな村の苗字だということ、驚きだ。
で、鉄道建設の後、住み着いていたこれらインド系の人々は、アフリカ諸国が続々と独立していく中、どんどん国を追われて、イギリスにやってきたというわけです。

いつだったか、インドの列車で、だんなさんが白人で奥さんがインド系というイギリス人の夫婦と乗り合わせたことがあった。40年配の奥さんは、小柄な、彫りの深い切れ長の目をした美人で、インドでも北西の方の顔っぽいなあ、と思った。
出身をたずねると「私、イギリスで育ったのだけど、もともとはタンザニア生まれなのよ」とのこと。
そのときは、ふーん、インド人って本当に世界のあちこちにいるんだなあ、としか思わなかったのだけど、今になってようやく、ああ彼女はあのパテルさん一族の子孫なのだ、と思い当たりました。

2)バングラデシュのコックさんたち
バングラデシュ船籍の貿易船に乗っている料理人さんたち、本当に過酷な労働条件の下で働いていて、イギリスに着いてからそのまま陸に逃げてくる人が絶えなかったそうです。毎年ニュースにもなっているけど、洪水やらなにやら、天災の多い国で、カルカッタにも大きなバングラデシュ難民のエリアがある。

この人たちが元になって、現在、東ロンドンのBrick Laneというところにある、一大バングラデシュ人街とでもいえそうな通りを築いてきたそうです。ここはベンガル料理とかバングラデシュの味! と大書きされた看板がズラリ並ぶわ、呼子のお兄さんたちが道行く人たちに声をかけるわで、まるきりインド亜大陸の空気が流れています。
一度、ここで写真を撮っていたら、数人の男性にものすごい勢いで「何が目的だ」と詰め寄られたことがあった。私がただの日本人の学生だと分かるとみんな突然紳士に戻って優しくしてくれたけど、あれはきっと、不法滞在とか、そういうことで警戒されたんだろうな。ここで言ってもしょうがないけど、その節はぶしつけに写真を撮ったりしてごめんなさい。

ところで、一応、イギリス人もバングラデシュとインドは違うらしいということは認識しているらしいのですが、どうも彼らの動向を観察していると、一括りに「カレーの国の人」と思っている感じ。

3)エリート医師学校の人々
むかーし昔、イギリスが現在のような医療制度を整えかけていたころ、何が問題だったって、医者の数が圧倒的に足りないことが最大の問題でした。で、何をしたかというと、インドにイギリスの医大とまったく同じシステムの教育機関をつくって、そこで養成した医師をどんどん本国に呼び寄せたわけです。すごいことします、大英帝国。

お医者さんにインド人が多いのはそのためで、彼らは現在でも、いわゆるGP(地域内の指定かかりつけ医師とでも言えばいいのかな)という地位についていることが多いです。ちょっと育ちのよさそうなインド系の人たちは、たいてい医者の娘息子だったりする。

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とまあこのような分類になるそうで。それ以外にも、敬愛する料理人渡辺さんによると、イギリスのインド料理店のシェフとして呼ばれてくるインドの一流ホテルの料理人さんたちも最近は多いらしく、はたまたコンピュータ関連技師として、学生として、ほんとうにみんないろんなルートでやってきてるようです。

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巷で見かけるインド系の若者について。みんな完全にイギリス若者英語話してるし、しぐさや話し方、感覚も完全にイギリス化してる、姿形だけのインド系という感じ。

逆に、さいきんインドからやってきました、という人たちは、私の目がそっちに慣れているせいもあって、すぐわかる。着てるもの持ってるもの、装い方、しぐさ、アクセント、あと、匂いが違う。近くにいくと、なんかあの、懐かしーい、インドの匂いがして、ああこの人どこの出身なのかなあ、と思わず彼らの会話に耳をすませてしまうよ。ヒンディー語系とウルドゥー語系、タミル語系くらいしか聞き分けられないけど、きっともっとたくさんのお国言葉に分類されるのでしょう。
インド料理レストランにいっても、イギリス育ちの子と、出稼ぎ風の子、同じ格好をしていても、しぐさでなぜか分かる。不思議。

そういえば、バナーラスで住んでいた家の大家さんの息子が結婚式を挙げた時、お嫁さんの方がイギリス在住イギリス国籍のインド人で、式にはわんさとイギリス側親族友人が詰め掛けてきた。いちおう晴れの舞台であるからして、彼らも民族衣装に身を包んでいたわけだけど、特に若い女性、サリーを着慣れていないのか、ぜんぜんサマになっていなかったのが印象に残っている。花嫁のお姉さんなんかズレズレに着崩れていて、でも自分で直せなくてアタフタしてた(笑)。きっと彼女なんかにはスーツとかジーンズとかの方が断然似合うのだろう。
この結婚はお見合い結婚で、列席していたイギリス側の親族のひとりが、「きょうび、お見合いなんかで会ったこともほとんどなくて、うまくいくのかねえ」と思わず私に漏らしていたのを覚えている。それでも大家の家は伝統を重んじるクシャトリア(もともとの武士階級)の資産家で、恋愛結婚なんぞもってのほか、という感じだった。後で聞いたら長男が勝手に恋愛結婚してしまったので、次男には「おまえは見合いだ」と言い聞かせてきたのらしい。
そういえば花婿はちょっと苦労人ぽくて、若いのにハゲてたなあ。

っていうか私、どうやらどこまで行っても、どこにいても、「インド」というあまりに巨大な枠組みからは逃れられないような気がしてきた(笑)
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by masala_days | 2005-02-02 20:25 | インド話


20代の暗黒時代をインドとイギリスその他あちこち季節移動し続け、30代、やっと日本国で社会復帰。8か月の産育休を経て、現在、働くかあちゃん。オットの不在中に衝動買いしたマンションの借金返済に勤しむ


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