これは愛なのだろうか

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[Sunday Lunch]
Red Kidney Beans in Tomato Sauce, North Indian Style
ラジュマ・ダルの北インド風トマト煮込み

昨日のメニュー、同居人にいまいち不評だったものが一品だけある。さつまいものコザンブだ。これはまたまた渡辺玲さんの「カレーな薬膳」にあったレシピで、「甘酸っぱくて日本の煮物を彷彿とさせる」ちょっと変わったカレーだ。私にはもうドンピシャのうまさであった。が、同居人は料理が甘いのがどうもダメだと言う。そんなことを言っても、彼がこよなく愛する缶詰のベイクド・ビーンズは、トマトソースをベースにした、れっきとした砂糖煮込みだ。缶にちゃんとそう書いてあるもんね。味覚なんていい加減なものだ。

同居人は幼少のみぎりからほとんど加工食品だけで育ってきた。彼のお母さんがまったく料理というものをしない人だからだ。
「うちの息子のガールフレンドったら、日本人なんだけど、今日もまた1時間も料理してたのよ!」
「レンジで3分間チンするのと、3時間かけて料理するのと、味なんて大して変わらないわよ」
とまあ、これまでにもいろいろと問題発言をかましてくれた。別にこれは彼女に限ったことではない。実に典型的なイギリス婦人であるというだけのことだ。

昨日、私はこの同居人母が訪問中に土曜恒例ディナーの準備をしていた。
「ねえねえ、それ、面倒臭くない?」
「本格的よねー。インド料理屋さんの匂いがするわー」
なんやかやと台所を覗きにくる。彼女は料理はしないが掃除マニアで、久しぶりに来た娘の家(われわれは同居人姉の家に家賃を払って居候しているのだ)を徹底的に磨き上げていたのだが、それもすっかり済んでしまい、同居人が帰宅するまで暇をもてあましていたらしい。いかにも手持ち無沙汰にしているので、グリーンピースの皮むきなどなど、こまごまとしたことを彼女にお願いした。

「どうです、今日は一緒にごはんを食べていきませんか」
水を向けると、少しの間考え込んでいた。彼女が日々愛好する冷凍食品にはかなりの数のインド風メニューが含まれているので、決して嫌いな味ではないはずだった。
結局、彼女は時間が遅いことを理由に帰宅してしまった。「そのうち必ず心を決めて来るわ」と妙ちくりんな約束を残して。

帰宅した同居人に「今日はマーガレットが料理を手伝ってくれたのよ」と言うと、彼は瞬時に血相を変え、「えええええっ!」と隣近所に響き渡るような音量で叫んだ。それは愛する母に料理を手伝わせた鬼嫁に対する非難の叫びではなく、「うちのママがつくった料理は食えたもんじゃないんだぜ」と焦った息子の悲痛な叫びであった。

ところで、彼はドッグフードのような純英国風加工食品をこよなく愛している。数ヶ月前に同居し始めてから、私の手料理は実に何回も缶詰のベイクド・ビーンズに負けるという憂き目にあってきたものだ(せっかく食事を用意しても、「僕いらない」とさっさと缶詰を開けてしまう……)。
ところが近頃の彼は、私のしぶとい味覚教育のおかげで「手料理の味」というものを覚えつつある。柔よく剛を制す、である。

それはいいのだが、今度はさりげない要求が頻発するようになってきた。今日も一日家にいた私に向かって、「ねえねえ、豆のカレーっておいしいよねー」、「こないだ買ってたスコーン・ミックス、いつつくるの?」とじわりじわり攻めてくる。

そうだ、最近われわれはスコーンに凝っている。あの英国式ティーの時に必ず供される、「外はさくさく、中はもちもち」した、ビスケットとパンのあいのこみたいなお菓子(?)のことだ。あっちこっちのベイカリーで買ってきては品評している。同居人なんてわざわざ1時間もかけてセンターにおもむき、ハロッズのフードコートで買ってきたくらい、はまっている。

ハロッズのスコーンはそこそこうまかった。でも「焼きたてはもっとうまいはず」と、先日、買出しの時に半ば強制的にスコーン・ミックスを買わされたのだった。

初めてつくるスコーンは、恐れていた通り、うまく膨らまなかった。
でもさくさくした食感は確かに今までで一番、うまかった。
「もっとさあ、こねないでさっと混ぜるとうまくいくんじゃない」
ソファーに寝そべりながら同居人は言った。それならアンタがつくらんかい。

ええ、わたしゃー素直につくりましたよ、豆のカレーもスコーンも。
これは愛なのだろうか。なんだか納得がいかない。

「そうだ、今度つくる時はレーズン入れてよね」
味覚教育の効果が出始めたと他愛なく喜んでいる私の影で、どうも彼が「しめしめ」とほくそ笑んでいる気がしてならない。
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by masala_days | 2005-02-28 06:58 | イギリス話


20代の暗黒時代をインドとイギリスその他あちこち季節移動し続け、30代、やっと日本国で社会復帰。8か月の産育休を経て、現在、働くかあちゃん。オットの不在中に衝動買いしたマンションの借金返済に勤しむ


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